母92歳

母は今日で92歳になった。

子供たち家族も我が家に集まってもらって大勢で祝ったのは何年前までだったろうか。

お祝いに花を持って行こうか、ケーキを持って行こうかと悩んでホームに電話で尋ねたら、花は口に入れる可能性がないとは言えないのですすめないと言われ、ケーキはほかの入所者さんの手前自分の部屋で食べてほしいとのことなので、考えた末に靴下にした。

ホームに着くと、母はテレビを見ながらおやつを食べていた。「こんにちは」と声をかけると「ああ・・」と気のない素振り。「きょうはおとうさん(連れ合いのこと)と来たよ」というと「あらそう」と私たちを娘夫婦だと認識していないかの様子だった。

「きょうは誕生日だね」「誕生日でなんかない」「2月11日だよ」「ああ、そう」

「これ、プレゼント」と包みを渡すと「あら、開けてみたいね」と反応したので「開けてみたら?」と促した。弱々しい手つきでどうにか開けたけど、いいとも悪いとも言わない(^-^; 「名前を書いておくね?」と言うと「そうね」、書き終えて「また袋に入れておこうね」と言うと「そうね」。

そのあとまたテレビに目を戻し、食べ終わったおやつの食器におしぼりを入れて、その端をフォークで掬って口に入れた。噛み切ろうとするが、すぐにやめさせると気を悪くするだろうと思ってしばらく様子を見た後「固そうね。噛み切れないからこれは向こうに返そうか?」と声をかけるとおとなしく了承したのでホッとした。職員さんに言うと、初めてのことだったらしいが「お腹がすいていたのかな?」と和ませてくれたけど、私にしても初めて見たので少なからず驚いた。

「また来るからね」と声をかけると「うん」と答えて、とくに名残惜しくもなんともない様子に気が抜けてしまった。

帰りに事務所の職員さんにおしぼりを食べようとしたことを伝えると「それは初めての行動ですね」と心配してくれた。誕生日プレゼントに花や鉢植えを選ばなくて正解だった。

帰りの車の中で連れ合いと「衰えちゃったね。でもイライラして気持ちが荒れているよりは、穏やかに見えるから良いのかもしれないね」とため息をついたのだった。